あなたがもし、
「部下が言われたことしかやらない。何か自分で考えて意見を言って動いてくれよ。ほんとに。」
なんて思っているようでは、悪循環に陥っているかもしれません。
さて、今回のコラムは“販促”のアイデアを生み出す“人”のマネジメントについて考えてみます。
やはり色々なアイデアを生み出して積極的にトライしてくれる人がいると販売促進活動は楽しく出来ますし、そういう環境が作れている企業・職場は魅力的ですよね。
人のマネジメントについては、世の中に多くのノウハウ本があります。有名な経営者の本、コンサルタントの本、研究者が書いたような本…。ただ恐らく、まだ“行動分析学”の観点から書いている本は少ないと思います。
皆さんは、“行動分析学”という言葉を聞いたことあるでしょうか?
部下が意見を言いません…
例えば、言われたことしかやらない部下がいるとします。
仮に会議で新商品の宣伝方法について意見を求めても何も言わない(新商品についての知識は有しており、経験もあるはず)という状況だとすると、なぜ彼(彼女)は積極的に意見しないのでしょうか?
やる気が無いから?意思が弱い性格だから?賢くないから?
でも、そう考えては結局具体的な解決策は出てきませんよね。行動分析学ではこのように考えません。行動分析学は、文字通り行動を分析する科学なので、心や能力に原因があるとは考えないのです。
行動分析学の考え方
では、どのように考えるのかというと、「意見する」という行動の直前から直後の状況の変化に着目します。先ほどの場合、部下は「意見する」という行動をしていないので、状況の変化によってもたらされた結果が部下の「意見する」という行動を弱化(※1)(行動の頻度を減少させること)させていると考えます。
具体的には、部下に意見を求める前は笑顔だった上司が、部下に意見を求めたあと笑顔が消えたり(「上司の笑顔あり」→「意見する」→「上司の笑顔なし」)部下が意見を言ったあとに上司が嫌味を言う(「上司の嫌味なし」→「意見を言う」→「上司の嫌味あり」)という感じです。
なんとなくイメージ出来るでしょうか?
あるいは、上司にとって部下の間違った意見を聞くことは嫌子(※2)であり、上司は無意識のうちに部下にとって意見の言いにくい雰囲気を作っているかもしれません(「間違った意見を言う」→「上司が呆れる」→「間違った意見を言わない」)。
ちなみに、前者は「好子消失の弱化」と「嫌子出現の弱化」、後者は「嫌子消失の強化(※3)」と言います。前者は「意見する」という行動を取ると、上司の笑顔(好子(※4))が消えてしまうことと、上司の嫌味(嫌子)が出現するため、「意見する」という行動の頻度が減少するという意味です。
後者は逆に、上司の「呆れる」という行動が、部下の「間違った意見を言う」という嫌子の消失によって強化されているという意味です。真ん中の行動の直後にある結果(厳密に言えば、直前から直後への状況の変化)によって、行動が強化されたり弱化されることが分かると思います。
専門用語を使っているので難しく聞こえますが、要するに部下が意見を言わない原因は上司の話の聞き方がまずかったり、上司が知らず知らずのうちにやっている行動が部下の意見を引っ込めてしまっている可能性がある、ということはご理解いただけたでしょうか?
結論:行動分析学は面白い!
冒頭に戻ります。ここまで読んだ方なら、部下が意見を言わない原因がどこにあるのか、なんとなく今までとは違うアプローチで考えることが出来ると思います。
もちろん、これらは行動分析学の一端に過ぎません。ですが、行動に着目し、その行動を強めたり弱めたりする要因は何かと考えることは多くのヒントを与えてくれます。販売促進は考えるのも実行するのも人ですので、行動分析学は大いに役立つはずです。また、これは身内のマネジメントのみならず、消費者の行動を考える際にも新たな視点をもたらすはずです。
参考文献
『行動分析学マネジメント 人と組織を変える方法』(2008)、杉山尚子・舞田竜宜、日本経済新聞出版社
※1 弱化:行動することで何か悪いことが起こったり、良いことがなくなったりすると、その行動が繰り返されなくなる
※2 嫌子:行動の直後に出現することでその行動の将来の生起確率を低めるような刺激・出来事・条件のこと
※3 強化:行動することで、何か良いことが起こったり、悪いことがなくなったりすると、その行動は繰り返される
※4 好子:行動の直後に出現することでその行動の将来の生起確率を高めるような刺激・出来事・条件のこと
ライター:表 悠司